デザイン思考を組織に根付かせるには? 定着と継続学習を促す実践的ステップ
デザイン思考導入の効果を最大化するために:定着と継続学習の重要性
多くの企業で、新規事業開発や顧客体験向上、組織課題解決の手法としてデザイン思考への関心が高まっています。人事・組織開発部門の皆様も、デザイン思考のワークショップや研修を企画・実施する機会が増えているのではないでしょうか。
しかし、一度ワークショップを行っただけで、組織全体の考え方や行動様式がすぐに変わるわけではありません。デザイン思考を組織文化として定着させ、継続的にイノベーションを生み出す土壌を耕すためには、計画的かつ継続的な取り組みが必要です。
この記事では、デザイン思考を組織に根付かせるための具体的なステップと、継続的な学習を支援するためのポイントについて解説します。一時的な「点」の活動を、組織全体の「線」や「面」へと広げていくためのヒントを提供できれば幸いです。
なぜデザイン思考の「定着」が課題となるのか
デザイン思考の導入を試みたものの、以下のような課題に直面しているという声も少なくありません。
- ワークショップは盛り上がったが、実際の業務に活かされていない
- 特定の部署やメンバーだけが知っており、組織全体に広まらない
- 手法やツールが一時的に使われるだけで、考え方そのものが浸透しない
- 新しいアイデアは出るが、実行段階に進まない
これらの課題は、デザイン思考が単なるスキルやフレームワークの習得に留まり、組織全体の価値観や日々の業務プロセスに組み込まれていないことに起因することが多いと考えられます。定着のためには、学ぶだけでなく「使う」「活かす」を組織的に支援する仕組みが不可欠です。
デザイン思考を組織に根付かせるための実践的ステップ
デザイン思考を組織文化として定着させるためには、いくつかの段階を踏むことが有効です。
ステップ1:トップマネジメントの理解とコミットメントを得る
デザイン思考の組織導入は、単なる研修プログラムの導入以上の意味を持ちます。新しい働き方や価値創造プロセスへの変革を伴うため、経営層の深い理解と強い推進意思が不可欠です。デザイン思考が経営戦略や事業目標にどのように貢献するのかを明確に伝え、コミットメントを得ることから始めます。経営層自身がデザイン思考の考え方に触れる機会(役員向けショートワークショップなど)を設けることも効果的です。
ステップ2:スモールスタートと成功事例の創出
まずは特定の部門やプロジェクトチームを選定し、実際の事業課題や組織課題に対してデザイン思考を適用するパイロットプロジェクトを実施します。ワークショップの演習として終わらせるのではなく、具体的な成果(新しい顧客インサイト発見、プロトタイプ開発、業務プロセス改善案など)に繋がるまで伴走します。ここで生まれた成功事例を社内外に共有することで、デザイン思考の有効性を示し、他の部門への展開の足がかりとします。
ステップ3:社内推進体制と「チャンピオン」の育成
デザイン思考を社内に広め、実践をサポートする体制を構築します。
- デザイン思考「チャンピオン」の育成: 熱意があり、率先して実践するメンバーを各部署から選出し、より深い研修や実践機会を提供します。彼らが部署内の推進役となります。
- 社内講師の育成: 将来的に内製でワークショップやフォローアップ研修を実施できるよう、社内講師候補となる人材を計画的に育成します。外部講師による研修の際に、OJTとして同席させたり、講師養成プログラムを提供したりする方法があります。彼らが中心となり、継続的な学習機会を提供できるようになります。
ステップ4:実践ツールの標準化とアクセス容易化
デザイン思考でよく用いられるツール(ジャーニーマップ、ペルソナ、リーンキャンバスなど)やフレームワークを、誰でもアクセスしやすい形で提供します。テンプレート集の整備、オンラインツールの導入、物理的なワークショップスペースの準備などが考えられます。ツールだけでなく、各ツールの「なぜ使うのか」「どのように使うのか」を解説する簡潔なガイドラインも併せて提供すると、実践へのハードルが下がります。
ステップ5:継続的な学習と実践機会の提供
一度学んだ知識やスキルは、使わなければすぐに忘れてしまいます。継続的な学習と実践を促すための施策を講じます。
- フォローアップワークショップ: 基本的なワークショップの後の応用編や、特定のツールの深掘り、実際のプロジェクト課題を持ち寄る形式のワークショップを実施します。
- 実践コミュニティの形成: デザイン思考の実践者同士が情報交換したり、互いのプロジェクトについて相談したりできる社内コミュニティ(オンライン/オフライン)を形成・支援します。
- メンタリング制度: 経験者が初学者をサポートするメンタリング制度を導入し、実践における疑問や悩みを解消できる仕組みを作ります。
- 成果発表会・共有会: デザイン思考を適用したプロジェクトの成果を発表・共有する場を定期的に設けることで、学び合いとモチベーション向上を促します。
効果測定の視点
デザイン思考の定着度や効果を測るためには、単にワークショップの満足度を測るだけでは不十分です。以下の視点を含めて効果測定を行うと良いでしょう。
- 適用度: どれくらいのプロジェクトやチームでデザイン思考が活用されているか。
- 実践スキル: 参加者がデザイン思考の各プロセスやツールをどれだけ使いこなせるようになったか(実践観察や自己評価)。
- 意識・マインドセットの変化: 顧客中心思考、プロトタイピングへの抵抗感、多様な意見への受容度などがどう変化したか(アンケートやインタビュー)。
- 成果創出: デザイン思考を活用したプロジェクトが、新しいアイデア創出、顧客満足度向上、業務効率化などの具体的な成果にどれだけ繋がったか。
- 組織文化への影響: 失敗を恐れずに挑戦する風土、部署横断での連携、アイデアを歓迎する雰囲気がどれだけ醸成されたか。
これらの多角的な視点から効果を測定し、施策の改善に繋げていきます。
まとめ:定着は終わりなき旅
デザイン思考の組織への定着は、一度の取り組みで完了するものではなく、継続的な支援と文化醸成のプロセスです。経営層のコミットメントのもと、スモールスタートで成功事例を作り、社内チャンピオンや講師を育成し、継続的な学習と実践の機会を提供することが重要です。
人事・組織開発部門の皆様にとって、これらのステップはデザイン思考ワークショップの企画・運営だけでなく、その後の組織的な展開と効果最大化に向けた重要な役割を担うことを意味します。この記事でご紹介した実践的ステップが、貴社におけるデザイン思考の定着と、それを通じた継続的なイノベーション創出の一助となれば幸いです。